私が幼い頃を振り返る時、決まって思い出すのがクロモジの香りです。共働きの両親のもとで育った私は、よく祖父母の家で過ごしました。曽祖父母や祖父母に混じって箱詰めの手伝いをしたことも、楽しい思い出として残っています。
その後、私は家業とは違う道を歩んでいましたが、先代社長から「あと数年で会社をたたもうと思う」と聞かされた時、真っ先に感じたのは、「大好きな祖父母の思い出の詰まった会社をなくしたくない」という思いでした。亡くなる直前まで、手作業で楊枝を削っていた祖父。その姿に背中を押されるように、私は「純国産黒⽂字楊枝の復活」を社長に提案し、その勢いで2014年に菊水産業に入社。クロモジの原木が採れる山探しに奔走するなど、無我夢中の毎日を過ごしました。
地場産業を守ろうとする私たちにとって、ものづくりとは人との縁づくりでもあります。お取引先や、SNSなどを通じて応援してくださる個人客の方々。クロモジの原木を伐らせてくださる山主様や、木や竹を使った昔ながらの道具をつくり続けている職人の方々。昔からお世話になっている地域の内職の方々。私たちはこれからもそのつながりを大切に、「小さくても、ロングライフ」なものづくりを模索し続けます。
代表取締役 末延 秋恵